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築城奉行日記

【歴史博物館編】
尼崎城築城までの道のりを築城奉行として紹介した連載「築城奉行日記」。お城の完成から1年。2020年10月に、お城の近くになんと歴史博物館が開館します。今回はそのコレクションを見てみたい!と開館準備に忙しい館にお邪魔しました。

学芸員の室谷さん(右)と井上さんの案内で特別収蔵庫にカメラ初潜入。セキュリティを守るため背景はぼかしています。

コレクションを守る秘密の部屋へ

 真っ白な真新しい廊下を抜けた奥に、その部屋はありました。セキュリティカードをかざして解錠し、扉を入るとそこは前室。さらに奥に重厚な扉が待っています。「そういえばここにカメラが入るのは初めてですね」と言って学芸員の室谷公一さんが、少しひんやりした特別収蔵庫を案内してくれました。


温湿度を常に記録するメーターは温度20度、湿度60%を示していました。

おすすめの一品、見せてください。

 この部屋には、屏風や掛け軸、兜や銅鏡といった貴重な史料が保管されていて、つい先週引越しを終えたばかり。すべて丁寧に梱包されていて、素人にはどこに何が納められているのかさっぱりわかりません。が、せっかく入れてもらったのに何も見ずには帰れません。思い切って聞いてみました。「おすすめの一品、ちょっと見せてくれませんか」。


「おすすめ? うーん、何を見せようか」と相談する二人の学芸員。

 「じゃあ私から」と棚から箱を取り出したのは、考古学のプロフェッショナル・井上亮さん。埋蔵文化財の担当で、この日も発掘現場から帰ってきたばかりでした。大学時代に考古学を志し、大学卒業後は亀岡市や高槻市の発掘現場を渡り歩いてきた井上さん。平成28年に尼崎市の学芸員となり、開発予定地の埋蔵文化財調査と考古資料の保存・活用を行っています。


専門は古墳時代で「考古学は人類が生まれてから今までの広い範囲の学問なんです」という井上さん。

時空をこえてやってきた一枚の鏡

 箱から取り出したのは一枚の青銅鏡。水堂須佐男神社(水堂町)にある古墳から、昭和37年に出土した「三角縁神獣鏡(さんかくぶちしんじゅうきょう)」です。井上さんが「朱塗りの木棺から人骨とともに鏡や刀剣などが見つかっています。出土品の組み合わせ等から古墳時代中期、今から約1600年前のものだと思われます」と解説してくれました。


3体の神と4匹の獣の姿があしらわれた「三神四獣鏡」。権威の象徴として棺に供えられたと考えられます。

 荘厳な青銅鏡に見とれていると、「出土したときはもちろん割れていたんですよ」と井上さんが教えてくれました。これを修復し昭和60年に尼崎市指定文化財になりました。「実はその後もう一度割れているんです。阪神大震災で展示ケースからガラスを突き破って落ちたそうです」と言われても痕跡がわからないくらい鮮やかな修復技術に2度も驚かされました。


室谷さんの専門は江戸時代。昨年は尼崎城の完成で、講演やセミナーに大忙しでした。

 「じゃあこちらも写真映えするものがいいかな」と大きな段ボール箱を紐解きはじめた室谷さん。大学院では享保時代の足高制を研究、高校教師を経て、昭和63年に江戸時代やお城を専門とする学芸員として採用されました。当時の志望動機を聞いてみると「知り合いが勝手に応募していたんです」と、まるでアイドルオーディションのような理由に驚き。さて、室谷さんはどんなコレクションを選んでくれたのでしょうか。


紐の結び方にも独特の梱包技術があるそうです。

ディス・イズ・尼崎城の歴史

 出てきたのは重厚な「兜」。待ってました!これぞ江戸時代。思わず興奮しながら写真を撮ります。「九曜桜花紋入火事兜(くようおうかもんいりかじかぶと)です。ちょっと持ってみますか?」と言われ恐る恐る持たせてもらうと、意外にも軽くて拍子抜け。「鉄板を紙に貼ってるんです。これは戦うための兜ではなく、火消しの際にお殿様が被ったもの。おそらく江戸後期、尼崎城主の松平忠栄(ただなが)あたりのものと思われます」と室谷さんの解説を聞いた途端、200年前のお殿様が身近に感じるから不思議です。


鮮やかな朱色のマントは駆けつけたことをアピールするためなのだとか。尼崎城主の九曜(九つの太陽)と桜の紋がかっこいいです。

  「最後にもう一つ、室谷さんのお気に入りを見せてください」と無茶なお願いをしてみると収蔵庫の奥の棚から細長い箱を取り出してくれました。

あの人の直筆に思わず色めく

  二重の木箱に厳重に保管されていたのは一本の軸。するすると開くと中には文字がにょろにょろと並んでいます。一見何がすごいのかよくわかりません。すると室谷さんから「これ、近松門左衛門の自筆。戦後発見された唯一の書状です」と種明かし。「近松の字は上手いんですよ。お友達への手紙なのでさらさらっと書いているのに美しい」と絶賛です。つい「これ、なんぼするんですか?」と質問すると「小さなマンションが買えるくらいかな」とまたまたはぐらされてしまいました。


没年の72歳の春に友人に宛てて書いた手紙。自身の健康状態や食欲、今度古道具を一緒に観に行こうといった内容に人柄が垣間見えます。

 今回見せてもらった3点はどれも新しい歴史博物館で展示される予定。さらに室谷さんは開館直後の企画展も手掛けます。「きっと市民の方々は楽しみにしてくださっていると思いますが、こちらはドキドキです」と引越しから休む間もなく、展示の準備に奔走します。銅鏡や松平の兜、近松の書、尼崎市民の大切な財産に出会えるまであと3カ月です。


新しい展示ケースの前で「一人でも多くの人に見にきてもらいたいですね」という井上さん(左)。



 1  歴史博物館 建設予定地
〒660-0825 兵庫県尼崎市南城内10−2(Google Map


第3回 その記録が歴史になる。アーキビストの仕事

第1回 幻の歴史博物館がついに開館。

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