尼崎でごきげんに暮らしたい人へ

築城奉行日記

【歴史博物館編】
尼崎城築城までの道のりを築城奉行として紹介した連載「築城奉行日記」。お城の完成から1年。2020年10月に、お城の近くになんと歴史博物館が開館します。今回はそのコレクションを見てみたい!と開館準備に忙しい館にお邪魔しました。

 公文書(こうぶんしょ)とは、国や市役所などの行政機関が、物事をどう決定したのか、どんな話し合いが持たれたのかといった職務内容を記録したものです。最近、「改ざん」や「隠ぺい」といった言葉とともに話題にのぼったこともあり、その重要性が改めて注目されています。

 尼崎市にも膨大な公文書や古文書(こもんじょ)がきちんと保存されていますが、私たちがそれらを読み解くにはサポート役が必要です。新しい歴史博物館には、これまでこうしたまちの記録を残し伝えてきた、尼崎市立地域研究史料館もやってきます。尼崎市総合文化センター7階の一室から引越し作業中のアーキビストたちにお話をうかがいました。


河野さん(左)と吉川さん(中)とともに、前館長の辻川敦さんにも新しい館で出会うことができます。

全国でわずか2%弱という希少な館

 まずは「アーキビスト」という聞き慣れない職業のお話から。「日本語では公文書館職員ですって答えていますね」というのは同館係長の河野未央(こうのみお)さん。文書管理の専門職として尼崎市に採用され、史料の評価選別や収集、市民が利用しやすいように整理し案内してきました。

 「公文書館」というのもあまり馴染みがありませんが、それもそのはず。全国の市町村でもわずか2%弱ほどにしかないという珍しい館なのです。「尼崎市の歴史をまとめた『尼崎市史』の編集室が発展して1975年に設置されました。多くの自治体では市史ができると解散するのですが、尼崎では今も地域の様々な史料の収集を続け、市民が閲覧できる市立文書館として守られてきました」とその経緯を教えてくれました。


引越し前、総合文化センターにあった史料館閲覧室の様子。と、この写真もいつかは貴重な史料になるかも。

史料の海で歴史をたどる案内人

 遺跡から出土した遺物、江戸時代の古文書や刀剣、絵画や工芸品、むかしの生活用具、はたまた発電所のタービンまで。あらゆる資料から歴史を伝える学芸員に対して、アーキビストは、利用者自らが記録から歴史をたどるための案内人といった感じでしょうか。

 「尼崎の史料館の取り組みは、実は歴史学の研究者やアーキビストの間ではとても知られた存在なんです」と語るのは、今年4月に新たに採用された吉川(よしかわ)真理子さん。前職はさまざまな会社の社史を出版する会社で、民間のアーキビストとして活躍していました。「史料をすべて保存することはできません。空間的な限界とこれからも生み出される史料の量を考えながら選別し、整理方針の相談にも応えていました」という吉川さん。前の上司に転職先を伝えたところ「尼崎の取り組みには注目していた。おめでとう」と言われたそう。尼ノ民としては何だか誇らしいものです。


大衆文化から幕末維新観を研究してきた吉川さん。今のところ引っ越しと整理の日々ですが、10月から来館者と一緒に歴史をたどる仕事が楽しみだとか。

どこにでもあるけど、そこにしかないもの

 アーキビストの大切な仕事に「史料収集」があります。旧家の屏風やふすまの下張りに使われた古い紙から、古文書が見つかることもあるそうです。史料館ではこれまで多くのボランティアと一緒にこれらをはがしてきました。


河野さんの専門は江戸時代。尼崎城が再建された2019年は出張講座で大忙しでした。

 河野さんは歴史資料を大規模自然災害から救出するボランティア活動の中で、地域の貴重な史料を捨てられる寸前に救出してきました。「史料と聞くと、一般の人はくずし字で書かれた巻物なんかをイメージされるんですが、おじいちゃんの日記や写真、自治会の古い予算書といったどこにでもありそうなものこそが、私たちにとってはそこにしかない貴重な史料なんです」といいます。

 「戦国武将の書状など、誰が見ても歴史資料という物は残るんですが、戦後のものはあっさり捨てられて抜け落ちてしまいがちです。でも何が大切になるのか、未来を読むことはできませんから」という吉川さん。だからこそ、史料を見極める眼力を備えた専門家が求められているのでしょう。


折り込みチラシの保存は史料館の日課。毎朝、スーパーや住宅販売などのチラシに日付の判を押して、整理しています。未来の尼崎市民が歴史をたどることができるように。

地域の記録(アーカイブ)の使い方

 今年3月に新型コロナ感染症で人々に不安が広がる中、地域研究史料館のブログに「コレラの大流行とその対策」という連載記事が投稿されました。1879年から尼崎町で猛威をふるった伝染病の様子や予防策などについて、当時の議会で作られた公文書を読み解いた記事は、SNSを通じて多くの人に届き、100年以上前の尼ノ民の知恵にふれることができたのです。


二人の前にある『たどる調べる尼崎の歴史』は市制100周年を記念して発行された新しい尼崎市史。私たちが史料にふれる方法が丁寧にガイドされた上下巻は現在も販売中です。

 「史料は歴史家だけのものではありません。市民が自分たちの権利や義務の成り立ちを知り、自らのまちをこれからどうするのかを考えるために、歴史の記録はきっと役に立つはず」という河野さんをはじめ、地域研究史料館のアーキビストたちは市民が史料にふれる機会を大切にしています。「地域の史料を住民のものに、歴史学を市民のものに」……40年前の史料館開館当時に職員のことばが、今なお新鮮に響きます。

 10月に開館する歴史博物館には、地域研究史料室が「あまがさきアーカイブズ」という愛称でお目見え。学芸員による博物館展示で興味を持った尼崎の歴史をさらに深堀りするために、地域史料とともに頼りになるアーキビストたちが私たちを待っています。






 1  歴史博物館 建設予定地
〒660-0825 兵庫県尼崎市南城内10−2(Google Map


第4回 歴史のはじまり。尼崎のふるさとへ

第2回 自慢のコレクション見せてください

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