尼崎 西武庫公園にホタルが帰ってきた!

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写真、尼崎で見られるホタルの様子

 ホタルといえば、初夏の夜の風物詩。しかし、「水や空気がきれいなところでしか生息しない生き物」というイメージがありませんか? 都会では見られるはずがない、と考える人も多いのでは。しかし、猪名川町や尼崎市でも見ることができるのだとか。今回は、「西武庫公園ホタルの会」の千木良さんに話を伺いました。


写真、ホタルが見られる西武庫公園を囲む小川

都会の真ん中でホタルを発見!


写真、ホタルが見られる西武庫公園を囲む小川

 「尼崎でホタルが見られるらしい」と聞きつけ、夜の西武庫公園へ自転車を走らせました。ホタルが見られるのは、西武庫公園を囲む細い小川。特に目撃情報が多い、うるま保育園周辺に向かいました。

 周囲は西武庫団地の明かりで煌々と照らされ、本当にホタルがいるのだろうかと疑ってしまいそうな場所です。しかし、少し公園へ入ると、木が光を遮って薄暗くなります。小川を覗きながら暗い細道を進むにつれ、「本当にホタルがいるのかな?」とだんだんと心細くなっていきました。目を凝らして見ていると、小川の横にある草が光っているではありませんか。「ホタルがいた!」と思わず歓喜の声を上げてしまいました。都会の真ん中にホタルがいたのです。
 
 西武庫公園では、毎年5月中旬から6月上旬までホタルを見ることができます。ホタルが活動をするのは、20時30分〜21時30分ごろ。雨の次の日や湿度が高い日は、地面が緩み土に潜ったさなぎが出てきやすくなるので、ホタルを見られる確率が上がるそう。街灯があったり、すぐそばを車が走っていたりと、まさかホタルが生息しているなんて思いもよらない場所です。そんな場所でホタルが見られるのは、30年以上も前からホタルを蘇らせる活動をしてきた人々がいるからです。


写真、西武庫公園に出現したホタル

「尼崎にホタルを」を合言葉に


写真、西武庫公園ホタルの会、会長の千木良さん

 活動に取り組んでいるのは、「西武庫公園ホタルの会」のみなさん。同会の事務局・千木良昌彦さんが、地元の有志や兵庫県、尼崎市の職員と協力して1986(昭和61)年から活動を開始しました。「昭和30年ごろまでは、ホタルを見ることができました。しかし、高度成長期で水も空気も汚れてしまい、ホタルが生息できない環境に。その場所で、再びホタルを蘇らせようと活動を始めました」と千木良さん。

 主な活動は、ホタルの餌となる「カワニナ」という巻貝を育てることや水路のゴミ拾い、ホタルの幼虫を放流することなどです。ホタルは県内からゲンジボタルのつがいを2匹もらい、武庫小学校の3年生が環境学習の一環として飼育、繁殖しています。2014年からは、さらに連携を強め、小学校の敷地内に飼育施設をつくりました。


武庫小学校の敷地内にある飼育施設の様子

 そうして飼育した幼虫は、11月ごろに放流をします。約200匹の幼虫を放流していますが、成虫となって飛ぶ姿を見せるのは、その中のわずか1%。人の手でどれだけ環境を整えても、失われた自然の再生は難しく、尼崎生まれ尼崎育ちのホタルが乱舞するにはまだまだ時間がかかります。

 ホタルが住むことができる環境は、きれいな水や水際に生える植物など、いくつもの条件が揃わなければなりません。その条件のひとつに、水路の周囲が暗いことがあります。オスは光を発しメスを探しますが、もともと明るい場所ではお互いの光を見つけることができず、生息することができません。近年は、次々と住宅が建ち並び、街灯も設置されました。そのため、徐々にホタルが生息できる範囲が狭まっているのです。


ホタルの幼虫。栄養不足なので飼育施設で育てています

子どもたちにホタルの思い出を


写真、笑顔の千木良さん

 しかし、「都会のホタルは、1つ2つの小さい光がポツポツするのが風情だと思います。毎年50〜60匹のホタルが飛んでくれるだけでいいんです」と千木良さん。飛んでいるホタルの数ではなく、小学生が環境学習として飼育を行っている“過程”が大切だと話します。「現代の子どもたちには、ホタルの記憶がありません。そんな子どもたちにホタルの思い出を残してあげたいですね。子どもからは“キューリさん”と愛称で呼ばれていて、まちで出会ったときに声をかけてもらうと嬉しいです」と微笑みます。


写真、案内してくれる千木良さん

 千木良さんはホタルが発生する時期は、毎晩のように見回りを行っています。すると、環境学習でホタルの生態について学んだ小学生が、ホタルを探す人に説明をしたり、地域のおじいちゃん・おばあちゃんが子どもたちに昔話をしたりと、世代を越えた交流を見ることができるそう。それもまた、都市にホタルを呼び戻す活動の産物なのではないでしょうか。

100年先を見越して


写真、西武庫公園ホタルの会のチラシ

 活動を開始した当時は30人ほどだったメンバーも、今では10人ほどに。30年以上活動を続けると、メンバーの高齢化が進みます。「一番若い人でも70代。これからは、後継者をつくることが目標ですね。私たちは日の目を見ることはできないかもしれませんが、100年先、200年先にホタルが飛び交うような息の長い活動にしたいです」と千木良さん。そのために、小学生や中学生など地域の子どもたちに、ホタルに興味を持ってもらうための活動に力を入れていきたいと意気込みます。
 ホタルをきっかけに心を通わせる人々の手によって、再び昔の風景が再現されることを期待せずにはいられません。


写真、笑顔の千木良さん

尼崎のホタルを見に行こう!


写真、ホタルが舞う様子

 西武庫公園ホタルの会では、子どもたちにホタルを楽しんでもらいたいと、10年前から「ホタル観賞会」を開催しています。観賞会では、子どもたちが楽しめる子ども縁日や、ホタルについての説明などを行います。日が落ちてからは、実際にホタルを見に出かけます。今年の開催は、6月2日土曜の18時から。西武庫団地の北側にある「ゆめハウス」で行われます。

 さらに、千木良さんがホタルの出没情報をブログで発信中。毎日のように何匹見られたか記事を更新しているので、その情報を見てから出かけるとより確実にホタルと出会えるかもしれません。
(千木良さんのブログアドレス:https://blog.goo.ne.jp/amakko-hotaru

 あなたも、実際にホタルを見てみませんか?「こんなところに本当にホタルがいるの?」という場所だからこそ、きっと見つけたときの喜びはひとしおです。


写真、資料を見せながら説明する千木良さん

写真、説明する千木良さん

写真、パークタウン西武庫団地

写真、笑顔の千木良さん

写真、ホタルが輝く様子

写真、説明する千木良さん

武庫地区歳時記(市役所/外部リンク)