新たな地元名物をつくれ!「尼崎あんかけチャンポン」の挑戦

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写真、尼崎あんかけチャンポン

 「チャンポン」といえば、長崎の郷土料理で有名ですね。明治時代に長崎市の中華料理店が考案し、そこから九州各地や全国へ広まったといわれます。鶏ガラと豚骨の白っぽいスープに、豚肉、エビ、イカ、キクラゲやさまざまな野菜がたっぷり載った中華麺というのが、標準的なイメージでしょうか。
 実は、そのチャンポンが尼崎で独自の発展をとげていたという説があります。それは、スープにとろみをつけたあんかけになっていること。昭和の高度成長期、集団就職で九州から多くの労働者がやってきた尼崎では、彼らの故郷の味をアレンジした、具だくさんで腹持ちのいいメニューが生まれたのではないか、というのです。


写真、尼崎あんかけチャンポンプロジェクトの冊子

 これを「尼崎あんかけチャンポン」と名付け、ご当地グルメとして全国に発信しようというプロジェクトが10年ほど前に始まりました。市内の中華料理店などでつくる「チーム・尼崎あんかけチャンポン」の参加店は現在25店。その中から代表的な3店を一日で食べ歩いてみました。

あっさり塩味とだしのうま味が染みる「アメちゃん」


写真、アメちゃんの尼崎あんかけチャンポン

 1軒目、塚口本町の「アメちゃん」は創業51年、家族で営む中華食堂。小学生の頃からよく店を手伝っていたという雨田賢一さん(43)は、「チャンポンといえば、うちでは昔からこれ。あんかけが珍しいと言われても、最初はピンとこなかった」といいます。
 あっさりした塩味と、キャベツの代わりに白菜を使うのが特徴。鶏ガラや豚骨に加え、削り節や昆布の魚介系だしを使うのは、父の暢也さん(71)が、もとは和食の板前だったからだそう。見た目も、味わいも、たとえるなら「中華丼風ラーメン」といった感じです。取材に訪れたのは2月の寒い日。冷えた体のすみずみまで、だしのうま味が染みわたっていくようでした。


写真、アメちゃんの雨田さん

 「近くに大きな工場があり、勤務終わりにひとしきり飲んだお客さんが締めの一杯を食べに来ることも多いので、あっさり味がちょうどいいんですよ」
 このスープをベースにした「加利(カレー)チャンポン」も昔から店の定番。最近はさらに、味噌味や、豆板醤を加えた辛味噌味もあるそうです。

しょう油味をきかせた「尼チャン」が看板の「天遊」

 2軒目、東難波町の「天遊」の濱田共範さん(56)は、生粋の中華職人。テレビの料理対決に出た時のゼッケンと写真が目を引きます。名物メニューの「尼崎チャンポン」もテレビの取材がきっかけで生まれたそう。


写真、天遊の濱田さん

 「22年前の開店当初は、長崎チャンポンだけやってん。修業時代の師匠が長崎出身で、その味にほれ込んでね。しばらくして、テレビの取材に来たディレクターから『この店の、尼崎ならではのメニューはないんですか』と言われ、ほんなら作ったるわと」


写真、天遊の尼崎あんかけチャンポン

 中国の「ダールー麺」というあんかけそばをヒントに考案したのが、鶏ガラベースのあんかけスープにしょう油をきかせた「尼崎チャンポン」。いつしか、「尼チャン」と略して呼ばれ、師匠から受け継いだ「長チャン」と並ぶ看板メニューとなりました。
 「最近は宣伝効果か、尼チャンの方がよう出るね。食べ飽きへん味やって。いや、尼チャンて言いたいだけかな(笑)」。これを卵でとじ、ピリ辛天津麺に進化させた「泥チャン」も、去年登場したところです。

父子の歴史を物語る上下二層スープの「星屋」

 3軒目、フェスタ立花南館にある「星屋」は、中華以外のメニューやお酒の品ぞろえも充実した居酒屋。もともとは1952年、長崎出身の先代が潮江で回転焼きの店を始め、その4年後、今につながる立花駅前の店を開いたそうです。


写真、星屋の赤星さん

 「父は当初、長崎チャンポンを出していたんですが、私が店に入り、関西人の口に合う味にしようと相談して、和風だしで割るスープができたんです」と、赤星典秀さん(61)。ただ、お客さんからよく求められるあんかけは、先代が「故郷の料理と違う」と渋ったそう。「尼崎あんかけチャンポン」プロジェクト発足時からリーダーだった赤星さんは、そこで頭をひねります。編み出したのが、上はあんかけ、下は普通のスープという上下二層のチャンポンでした。
 「下のスープが父、上のあんかけが私。この二層構造がわが家の歴史なんですよ」


写真、星屋の尼崎あんかけチャンポン

 その「尼崎あんかけチャンポン」は、山盛りの具材で麺が見えないほど。2~3人で分け合って、ちょうどいい量です。赤星さん父子の歴史とともに、しみじみ味わいました。

尼崎城とのコラボも企画中?


写真、ワールドちゃんぽんクラシックのポスター

 尼崎商工会議所の呼びかけで始まった「尼崎あんかけチャンポン」プロジェクトは、これまでに食べ歩きツアーやマップの作成、スタンプラリーなどのPR作戦を展開。全国のご当地チャンポンが集まる「ワールドちゃんぽんクラシック(WCC)」をはじめ、市内外のイベントにも積極的に出店し、注目度を高めてきました。その効果で、大手のメーカーやコンビニ、スーパーが「チーム・尼崎あんかけチャンポン」監修の商品を開発し、全国で発売するまでになっています。


写真、星屋の赤星さん

 チームの初代代表をつとめた「星屋」の赤星さんは、「これまであまり交流がなかった個店どうし、横のつながりができたのがうれしいですね」。2代目代表となった「アメちゃん」の雨田さんは、「尼崎城とのコラボ企画も考えています。もっと広めて、ブームになるぐらい盛り上げていきたい」と語ります。
 チャンポンとはもともと、「さまざまな物を混ぜる」という意味。尼崎の店や人びとが出会い、混じり合って、新たな地元の味を、さらに盛り上げてくれるでしょう。


写真、アメちゃんのスープ鍋

写真、アメちゃんの店内

写真、アメちゃんの店舗外観

写真、インタビューに答える天遊の濱田さん

写真、天遊の店内

写真、天遊の店内、テレビの料理番組で出演したときに使ったゼッケン

写真、星屋の店舗外観

写真、星屋の店内

写真、立花に移転する前の星屋の店舗外観写真