ごきげんさんに暮らすまち、尼ノ國

尼ノ民たち

写真、海をバックに笑顔の宮本さん
宮本悦男さん(40)/尼漁開発取締役・武庫川渡船スタッフ

釣れる魚は85種。武庫川河口の豊かさ


 尼崎の海は釣りのメッカで、良質な漁場でもあることをご存じでしょうか。海辺の工業地帯や、かつての公害の印象もあって想像しにくいかもしれませんが、海はどんどんきれいになり、魚の種類も増えていると宮本悦男さんは言います。武庫川の河口から、約1.5キロ先の海上にある防波堤・武庫川一文字まで、釣り人を乗せて一日何往復もする渡船業を営み、尼崎の海を長く見つめてきた「海の男」です。
 「このへんは武庫川と淀川、二つの河口から淡水が流れ込む汽水域で、ミネラルやリンなどの栄養分が豊富なんです。プランクトンが多いので、イワシやアジなどの小魚も多い。すると、それらを食べる大きな魚も集まってくるわけです。しかも、大阪湾のいちばん奥になるので、一度入り込んだ魚はなかなか出て行かず、付近を回遊する。他地域では季節の終わった魚が、尼崎では1~2カ月先まで釣れることもよくあるんですよ」


 どんな魚が釣れるのか聞いてみると、次々と名前が出てきました。
 「今は(取材は10月半ば)タチウオやブリが最盛期。夏ならタコ、チヌ、メバル、ガシラ。アコウのような高級魚も釣れますし、サバ、アジは夏から冬までずっといます。数えてみたら、尼崎では1年に85魚種も釣れることがわかりました」
 理由はいくつかあるそうです。関西空港ができて潮の流れが変わったこと。武庫川河口の浄化センターの効果で水の浄化が進んだこと。温暖化などの気候変化。「新しく増えた魚もいますが、それよりも昔いた魚が戻ってきていますね」というのが宮本さんの実感です。

海にいること自体が好きだから


 宮本さんの家は、もともと尼崎で漁をする網元でしたが、1970年代半ばに漁業をやめ、祖父と父が渡船業を始めています。ちょうど武庫川一文字が建設中の頃。絶好の釣り場を求めて押し寄せる大人に混じり、幼かった宮本さんも釣りに熱中します。
 「子供の頃は、もうアホみたいに釣りばっかり。武庫川の河口や船着き場が多かったですね。小学校に入ると母親に勉強しろと言われるので、釣りざおと教科書を持って出かけるんです。釣り糸を垂らして教科書を開き、休みの日は一日中座っている。釣りがしたいから勉強する、みたいな感じで」
 大学を出ていったん就職しますが、どうしても釣りへの思いが断ち切れず、家業を継ぐことにしました。今は、毎日の渡船運航のほか、尼崎市立魚つり公園の売店の運営、海上工事の警備なども担当しています。


 全長4.5キロ、海面からの高さ6メートルの武庫川一文字は、数年前まで全国一の規模を誇った防波堤で、関西圏では有名な釣りスポット。北陸や中部、関東から腕試しに来る釣り客もいます。彼らをさまざまな面でサポートするとともに、釣りの普及のため初心者に指導やアドバイスをするのも、宮本さんの仕事です。


 「早朝から夜まで、ずっと海にいます。ここにいること自体が好きだから全然苦にならない。ちょっと仕事の手が空くと、釣りをします。特に、船着き場は幼い頃からなじんだ場所なので得意ですよ」
 その笑顔から、誰よりも尼崎の海を知り、愛する気持ちが伝わってきます。

尼崎の魚を味わってもらう仕掛けが続々


 今、宮本さんは、尼崎で釣れた新鮮な魚を食べてもらうことに取り組み始めています。
 たとえば、「武庫川フィッシュ&チップス」と名付けたメニューの開発。スズキやボラを揚げ、ポテトチップスを添えて、魚つり公園のバーベキュー施設などで提供します。魚料理によく合うしょう油を兵庫県多可町の醸造元から仕入れ、販売もしています。買った人の顔写真を撮り、オリジナルラベルの「マイしょう油」ができ上がります。
 神戸の海鮮居酒屋と協力して、釣りと食を組み合わせた企画も立ち上げました。
 「参加者と一緒に一文字へ行き、釣れた魚をその場でさばいて、網焼きで食べてもらいます。釣れたての魚は、刺身もいいですが、なんといっても塩焼きが一番。さおは無料で貸し出し、スタッフが指導しますから、初心者でも、子供でもOK。午前8時から午後1時まで半日遊んで食べて大人2,000円、子供1,000円という格安にしています。釣りの楽しさを多くの人に伝えていきたいので」


 尼崎には漁業者がいないため、実は武庫川河口で獲れた魚も、たとえば泉州の港に揚がり、「泉州産」として売られていることもあるそうです。「チヌやキビレなんかはそうですね。スーパーで見かけると、ほんとうは尼崎の、武庫川の魚やのになあと思います」と宮本さん。
 尼崎の海はこんなに豊かで、獲れる魚はこんなにおいしいと知ってもらうことが、今の目標になっています。

初心者も親子連れも渡船で釣りを


 今年9月の台風21号で、宮本さんの仕事場は大きな被害を受けました。船が流され、魚つり公園の施設も浸水。武庫川一文字への渡船は早急に復活しましたが、魚つり公園の全面復旧はもう少し先になる見込みです。
 「うちだけじゃなく、神戸や大阪の釣り公園も被害を受けたので、親子連れや初心者の方が気軽に釣りができる場所が今なくなっているんです。わざわざ渡船で防波堤へ行くのは気が引けるという人もいますが、そんなことはありません。初心者でも十分に楽しめます」
 釣り人口を増やし、次の世代へ継ぐ仕掛けをどんどん作っていこうと考えています。








(プロフィール)

みやもと・えつお 西宮市出身。尼崎から橋で武庫川を渡ってすぐの場所で釣り少年として育ち、そのまま渡船業に。小学生の子供が2人いるが、「釣りよりも食べることが好きみたいです」と笑う。武庫川渡船は毎日朝5時半から夜9時まで運航。乗船料金は大人2,200円、小学生1,100円。阪神武庫川駅から送迎バスもある。問い合わせは、06-6430-6519



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