福祉業界のおしゃれ番長、尼崎にあり

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平林景さん(43歳)/おしゃれ番長

 長身で細身の体型を生かしファッションモデルのようにスカートを履きこなすのは、尼崎市内で「放課後等デイサービス みらい教室」を経営する平林景さん。異業種から福祉業界に飛び込み、「障がいがあるからこそ通える施設」を作ったり、福祉のイメージを変える活動をしたりと、マルチに活躍する「福祉業界のおしゃれ番長」をご紹介します。

明るくおしゃれで華やかな教室


南武庫之荘にある「カラフル」がテーマの本教室

 平林さんが南武庫之荘にある「放課後等デイサービス みらい教室」をオープンしたのは2017年のこと。自身の近しい人に発達障害があることを知り、そんな子ども達が通いたいと思える福祉施設を作るために起業しました。障がい児を持つ親からのヒアリングを重ね、「明るくおしゃれで華やか」な場所で、放課後等デイサービスでは珍しい教員免許を持った先生を中心とした「マンツーマン」で療育できる施設を設立。「健常者の子どもも行きたくなるような『障がいがあるからこそ通える施設』を目指しました」と話す平林さん。実際に教室内の壁はポップな色で塗られ、大人でもワクワクしてしまうほど楽しそうな空間です。


本教室の入り口

 ここに通うのは6歳から18歳までの障がいや発達に特有のある子どもたち。学習障がい(LD)の子どもは、知能に関係なく文字を読むことや字を書くこと、計算をすることなど特定の分野が不得意です。「苦手分野にコンプレックスを抱いてしまわないように、その子の弱みを補いながら強みを伸ばすサポートをしています。生きる力を伸ばし、自己肯定感を高める教室ですね」と平林さん。「こんな施設があれば社会が変わるんじゃないかと思って。福祉に対するイメージを変えたいんです」と続けます。

「福祉×おしゃれ」で障がいのイメージを変えたい


話をする平林さん

 数年前、車いすに乗る人から言われたある言葉が忘れられないという平林さん。「おしゃれが好きだったけれど、歳をとって封印したわ」。車いすでは試着室に入れなかったり、脱着に人の手を借りなければならなかったりと「自分の欲求を満たすために人の手を煩わせられない」と障がいを理由におしゃれを諦めている人が多いことを知ります。「おしゃれには人生や時代までも変える力があることを知っていたので、諦めている人がいることに衝撃を受けました。それなら誰でも簡単に着られる服を作ろう」と、2019年11月に「一般社団法人日本障がい者ファッション協会」を立ち上げたのです。


ウエストはゴムとマジックテープ、中央にチャックが着いた「bottom’all(ボトモール)」。英語の「Bottom(ボトム)」と「All(オール)」を掛け合わせた造語には、性別、年齢、障がいの有無に関わらず誰でも着用できるボトムスという意味が込められている。

 マジックテープとチャックで脱着でき、車いすの人でも座ったまま着ることができる巻きスカート「bottom’all(ボトモール)」や、車いすに長時間乗っても皺になりにくい丈の短いフォーマルなジャケット「fressimo(フレッシモ)」など、次々と斬新なデザインを生み出してきた平林さん。「性別、年齢、障がいの有無は関係なく、誰でも着られる、着てみたいと思われる服を作りたいんです」。さらに、学生からアイデアを募ったり岡山のデニム産地とコラボをしたりと、協力者やファンを増やすプロジェクトも進めていきたいと話します。

マイナスを強烈なプラスに


話をする平林さん

 「おしゃれの最高峰パリコレでは、車いすがメインでランウェイに出たことがないそう。それなら自社ブランドの服を車いすの人に着てもらって一緒に出ようと思ってるんです」と次なる目標を語ってくれました。テーマは「If(もしも)」。「もしも車いすが当たり前の世界だったら、どんなファッションが生まれていたか」との思いが込められています。

 「車いすは足が寒いので、足を覆えるようなカバー付きの一人乗り用カーがあったら面白くないですか。当事者の視点に立ちながら、健常者も手に取りたいと思う物を生み出していきたい。障がいというマイナスを、強烈なプラスに変えたいんです」と目を輝かせる平林さん。アイデアや面白い企画が膨らみ続ける様子から、「未だ見ぬ未来を見られることにワクワクする」という平林さんの好奇心と「可能性を秘めた福祉業界を発展させたい」という使命感が感じられます。

「尼崎の福祉施設はおしゃれ」と思われるように


「fressimo(フレッシモ)」と「bottom’all(ボトモール)」を身につけた平林さん

 2025年には団塊世代が要介護となることで、介護従事者不足が予想されている日本。平林さんは若者の従事者を増やすためにも福祉の持つイメージを、きつい・汚い・危険の「3K」から、イケてる・生きがいがある・いい仕事の「3I」に変えたいと言います。「世の中の障がいに対する見方を、明るく華やかなイメージに変えることが人生をかけたミッション。前半の人生は自分のために生きてきたので、後半は誰かのために生きたいと思います」と平林さん。

 「まずは『尼崎の福祉施設はおしゃれだ』と言われるよう変えていきたい」と話す平林さんに、まちのイメージをお聞きしました。「尼崎市は多様性があって福祉に手厚いまちですね。自宅のある武庫之荘は住み心地が良いです。阪急沿線に住む子どもたちがみらい教室に通えることもあり、利便性も良い。尼崎市が開いている『ビジネスプランコンテスト』では起業家と繋がりができ、一緒に駅でゴミ拾いをしています。尼崎市長とラフに話せるところも好きですね。市長から『パリコレの次は尼崎城でファッションショーして!』とオファーを受けたんですよ。これからさらに尼崎を面白くしていきたいですね」と笑顔で話していました。


ステッカーを持つ平林さん

本教室の目の前は小川が流れる

本教室の入り口

本教室の内観

本教室の内観

本教室で話をする平林さん

平林さんの著書『「とと」と「とっと」と「発達障害」』

話をする平林さん

話をする平林さん

(プロフィール)

ひらばやし・けい 大阪市出身、尼崎市在住。美容師、美容専門学校の教員を経て2016年12月に株式会社とっとリンクを設立。同代表取締役。一般社団法人日本障がい者ファッション協会代表理事。毎日スカートを履いているのは「世の中の偏見に切り込んでいくための戦闘服」だからと話す。