尼崎でLGBTQ+の居場所づくり。一歩踏み出せば、つながっていく

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写真、NPO法人「MixRainbow」代表・いよたみのりさん
いよたみのりさん(54)/NPO法人「MixRainbow」代表

 阪急武庫之荘駅近くの「女性センター トレピエ」で月1回開催している「みんなの居場所」。セクシュアリティの疑問や悩みを抱える人たちのコミュニティとして、LGBTQ+に関するゲストトークや勉強会、交流会を行っています。参加者を限定せず、知りたい・学びたい人なども含めて誰でも参加可能で、参加者は市内や周辺地域を中心に、遠方だと京都府や愛知県からも訪れているそうです。


写真、「みんなの居場所」開催時の、いよたさん
「みんなの居場所」では、「カミングアウトをどうすればいいのか」「銭湯などに行きづらい」など、参加者一人ひとりの日常の困り事や悩み事を共有する時間も

 そんな「みんなの居場所」を企画・開催するのは、NPO法人「MixRainbow」。LGBTQ+を対象にパートナー探しをサポートする「虹コン」や、安心して入浴できる機会を提供する「虹色銭湯」といったイベントのほか、学校や企業、各種団体向けの講演や研修など、多様なセクシュアリティの人が生きやすい社会の実現に向けて取り組んでいます。

 「活動を始めて2年。ここまで広がるなんてびっくりしています。尼崎だからできたんです」と代表・いよたみのりさん。

「居場所=コミュニティ」がある意義


写真、各地で講座や研修、ワークショップを開催している様子

 いよたさんがMixRainbowを立ち上げた理由は、思いや経験をシェアし合うことで、生き方の選択肢を増やしたり、自己肯定感を高めたりできるコミュニティの重要性を実感したからでした。

 3歳の頃には自身のセクシュアリティに違和感を持っていた、いよたさん。本当の気持ちにフタをしたまま、世間から求められる“男性”として長年生きてきました。大学卒業後は現在も勤務する会社に就職し、結婚・子育ても経験。そんな日々の中でいつしか疲弊し、自殺未遂の末、生死をさまよったことがあると言います。


写真、立花南生涯学習プラザで取材を受ける、いよたさん

 離婚することになった時、「こうあらねばならない」というものから少し解き放たれる感覚があり、「自分らしく生きてみよう」と思えたそうです。いよたさんがまずしたこと、それがコミュニティに参加することでした。

 「自分と似た境遇の人を身近で見つけられなかったから。ほかの人が苦しみをどう乗り越え、生きているのかを知りたいと切実に思ったんです」

 セクシュアルマイノリティを取り巻く状況は、偏見や差別のほか、就労・医療・結婚などの場面で困難に直面するなど、さまざまな生きづらさがあります。そんな中でも、いろんな場に出向いて交流を楽しむ人、パートナーを見つけている人など、自分らしく生きる人たちと出会い、いよたさんの世界は一変します。

 「『なんや、普通でいいやん』って。普通でいてはいけないと、自分でも自分を追い込んでいたんだなと気づいたんです」

 その後、改名、自分らしい服装、性別変更など、家族や職場などを中心にカミングアウトや説明を重ね、時間をかけて少しずつ理解者や応援者を増やしてきました。

知恵を持ち寄ってくれる応援者が、あちらこちらから


写真、イベント「みんなの尼崎大学オープンキャンパス オトコとオンナ~『らしさ』の呪いを解くために~」開催時の様子
イベント「みんなの尼崎大学オープンキャンパス オトコとオンナ~『らしさ』の呪いを解くために~」。日頃抱える「らしさ」についての“もやもや”を話し合った

 地元の尼崎にもコミュニティがあったらいいのにと思うも、なくて諦めつつあったところ、たまたま見つけたイベント「みんなの尼崎大学オープンキャンパス オトコとオンナ~『らしさ』の呪いを解くために~」に参加したことから、急スピードで動き始めます。

 以前コミュニティで知り合った人と再会したり、参加者同士で話したりするうち、「自分でつくったらいいやん」と発想が転換。その勢いのまま、帰り際には市の担当者に相談していたそうです。

 思いや、やりたいことがあり、一歩踏み出して自らが関わり合っていけば、あっという間につながり広がっていくのが、尼崎。


写真、ロゴマークのほか、虹色銭湯と虹コンの開催時の様子

ロゴマークはパイナワーフ・多田さん夫婦作。イベント「虹色銭湯」は蓬莱湯・稲さん、「虹コン」は尼崎南ロータリークラブ、尼崎市と共催

 「みんなの居場所」は市と共催でスタート。その後も「ロゴをつくりたい」と言えば「あの人にお願いしてみたら?」と紹介、「活動維持のための費用、どうしよう!」と言えば「NPO法人化しては?」と助言、「この場所でイベントしてみいひん?」「あの団体と話してみいひん?」「一緒にやってみいひん?」など、市内の行く先々で出会う人からどんどんつながって広がっていきました。

 「尼崎には多様性を受け入れる地域性があり、それにおせっかいが多い。そこが気に入っているところなんです」と笑ういよたさんも、おせっかいなんです。

自分もあちらこちらで、おせっかいを焼いて回る


写真、2021とんだばやし人権フェアで「レインボー劇場 LGBTQ+あるある」実施時の様子
「自分を隠さなくてもいいのが嬉しい」(「みんなの居場所」参加者)、「相談できて嬉しかった」(講演後に相談に来た小学生)など、関わった人が明るい表情に変わるのを見られるのが、いよたさんの原動力

 MixRainbowの関係者や参加者から「こんなことがしたい」という声があれば、独自事業として実現。他市からコミュニティづくりの相談を受ければ、立ち上げ協力はもちろん、今も受付スタッフとして参上。ゲイの結婚相談所の経営者に「全セクシュアリティを対象にした事業も」とリクエストして実現したら、アドバイザーに就任。

 この取材前日には、つながりのある九州の団体が関わるイベントを見に行こうと福岡県へ。開発協力した靴メーカーがブース出展していたので接客のお手伝いまでしてきたそう。いよたさんのスケジュール表を見ると、予定でびっしり。いよたさん自身、さまざまなところで助言や紹介、協力など、おせっかいを焼いているんです。


写真、ファッションショーにモデルとして参加する、いよたさん
ファッションショーにモデルとして参加。「ウォーキングレッスンにはまりましたね」といよたさん。何事も楽しむ姿に、まわりの人たちがひきつけられるのだとも

 「尼崎を起点にいろんな人や地域とつながりながら、できることをしていきたいですね。そうすれば、幸せな人が増えるじゃないですか」

 市内外の行く先々で、人と出会い、つながって、想いや経験、知恵、願いを、互いに混ぜ合いながら、誰かや自分の現実をどんどん動かしていきます。

「誰も色をつけて見なくていい世界」へ


写真、立花南生涯学習プラザでメイン写真の撮影中の、いよたさん
「尼崎のよさをより実感したのは、自分で動き始めてから。『みんなの尼崎大学相談室』など、もっと知られていけばいいのに」といよたさん

 いよたさんがめざすのはMixRainbowのロゴマークが表す、たくさんの一人ひとりの光が混ざり合って光の三原色で無色になる、つまり「誰も色をつけて見なくていい世界」。

 「LGBTQ+の人の割合は、左利きやAB型の人の割合に近いと言われています。また、性的指向・性自認・性表現という3つの要素で性のありかたを表現する『SOGIE(ソジー)』という考え方を知ると、すべての人がこの表現の中に含まれますし、誰一人として同じではないことに気づくことができます。つまり、セクシュアルマイノリティの人だけを特別扱いしてほしいわけではなく、自身を含むみんなが、誰にとっても過ごしやすい社会にしていこうと思えるようになったらいいなあと思っているんです」

 「みんなの居場所」の参加者を限定していないのは、そうした思いがあるからです。

 「いつでも訪れられる居場所を持ちたい。市内で格安で借りられる場所があったら」といよたさん。どこからともなく、「あそこは?」「こんな方法もあるで」「一緒に考えよか!」という声が聞こえてきそうです。

いよた・みのり トランスジェンダー(MtF:男性から女性へ)としての自らの経験をもとに、2020年に個人で団体「MixRainbow」を立ち上げる。活動拠点を出身・在住地の尼崎市とし、コミュニティ「みんなの居場所」開催からスタート。翌2021年にNPO法人化。尼崎市と協力体制を取り、学校や企業、各種団体へ向けたLGBTQ+についての講演や研修なども開催。

【サイト】https://www.mixrainbow.jp/


写真、立花南生涯学習プラザでメイン写真の撮影中の、いよたさん

写真、ファッションショーにモデルとして参加する、いよたさん

写真、「みんなの居場所」開催会場の様子

写真、「レインボーフェスタ!2022・関西レインボーパレード」ブース出展中の、いよたさん

写真、「レインボーフェスタ!2022・関西レインボーパレード」参加時の、いよたさん

写真、「みんなの居場所」記念講演で稲村前市長が登壇した時の集合写真