障がいのある人が住みよいまちはどんな人にも住みよい

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写真、清田さん
清田仁之さん(42)/NPO法人「月と風と」代表

「おふろプロジェクト」で大家族になる


写真、インタビューに答える清田さん

 「重い障がいを持つ人たちは身近にたくさんいます。だけど施設に入っていたり、自由に外出できなかったりで、見えない存在になりがち。だからまちに連れ出して、地域の人たちが彼らと出会う機会をつくりたい。ゆさぶりをかけたいんですよ。出会えば、障がいを持つ人のことを理解して、声を掛けたり、手を貸したり、なんらかの〝おせっかい〟が生まれるので」

 NPO法人「月と風と」の代表、清田仁之さんは言います。重症心身障がい者向けのヘルパー派遣事業をしつつ、地域に「ゆさぶり」をかけるさまざまな仕掛けを企画してきました。


写真、インタビューに答える清田さん

 たとえば、障がい者を囲んでみんなで銭湯に出掛け、頭や体を流してあげたり、一緒にお湯につかって楽しむ「おふろプロジェクト」。多い時には、障がい者8人に対し、ヘルパーや一般参加者も合わせて計40人になるといいます。

 「たとえば脳性まひの人だと、過緊張といって体に力が入ってしまうんですが、おふろで温まると体がほぐれて、とても気持ちよさそうな表情になるんです。一般の参加者も、その気持ちよさはよく分かるから共感が生まれやすい。みんなで協力しておふろに入ると大家族みたいになるんですよ。達成感もあってね。『いやあ、いいお湯でしたね』なんて言い合って」

 名づけて「劇場型銭湯」。清田さんは「おふろに入るだけで社会貢献できます」と笑います。

遊びごころと、一人ひとりに寄り添うこと


写真、イベント、かるちゃどうの様子

 性別や年齢、障がいのあるなしをすべて越えて、いろんな人たちが集まり、共通の趣味や体験を楽しむ──。おふろプロジェクトをはじめ、「月と風と」が開くイベント「軽茶堂(かるちゃどう)」のコンセプトです。

 書道やアートで表現する会、詩を書く読む会、みんなでカレーを食べる会。それに、障がい者が喫茶店の仕事に挑戦する「キッサニア」。これは閉店した喫茶店を借り、プロにコーヒーの入れ方を教わりながら、注文を受けてコーヒーを出すところまでやる本格的な職業体験です。

 「お客さんになって注文する側も、どうすればきちんと伝わり、理解してもらえるかを考えないといけない。意志や感情が読み取りにくい場合もある障がい者とコミュニケーションをするきっかけになればいいな、と」


写真、インタビューに答える清田さん

 こんなふうに、清田さんが考える企画には、みんなで楽しもうという遊びごころがあるのが特徴です。もう1つは、一人ひとりに寄り添うこと。「障がい者」とひとくくりにするのではなく、個々人が何に困り、何を求めているのか、理解してこたえていこうという姿勢です。

 「ヘルパーの仕事をしてきて思うのは、生活や体験の広がりは、障がいの有無や重い・軽いの問題じゃないんですよね。その人のそばに誰がついているかなんです」

 重い障がいを持つ人に寄り添う「誰か」を地域の中に増やしたい。清田さんがさまざまなイベントを仕掛ける理由です。


写真、インタビューに答える清田さん

尼崎は〝おせっかい〟が生まれやすい?

 神戸の入所施設や西宮のヘルパー派遣事業者での勤務経験もある清田さん。2006年に尼崎でNPOを設立したのは友人の誘いがきっかけでしたが、このまちに来てとてもよかったと言います。

 「ものを言う人が多い印象ですね。自分はこんなことで困ってる、なんでこういうサービスがないんだ、とか。尼崎は、障がい者が働く小規模作業所がはじめて制度化された市なんですけど、それも『自分の子が行くところがない』と声を上げ続けた人がいたから。そんなふうに、今ある福祉の制度やサービスではすくい上げられない声や想い思いを形にしていく力がある。市民が自立して、開拓精神があるまちなんだと思います」


写真、インタビューに答える清田さん

 今、「月と風と」のスタッフがヘルパーとして訪ねる対象者は、市内を中心に約30人。四肢麻痺の人、言語でのコミュニケーションが難しい人。医療の専門性が必要なため、制度上はサービスが受けにくいケースもあります。そういう場合も、清田さんは制度よりもまず、目の前の障がい者や家族が何を必要としているか、その想いにどうこたえるかを考えます。

 「制度がこうだから仕方ないとあきらめてしまうのではなく、ご家族と話し合い、きちんと了解を得たうえで生活や体験の幅を広げてあげたい。尼崎の人たちはそういうことに理解があるし、やりやすいまちだと思います」

 個人が自立し、困っている人がいればほうっておけない。尼崎は〝おせっかい〟が生まれやすいまちなのかもしれません。

地域でやれることはたくさんある


写真、笑顔の清田さん

 「脱施設・築地域」──障がいを持つ人を施設に閉じ込めるようにして、制度やルールでしばりつけるのではなく、地域でふつうに、できるだけ自由に暮らせる社会にしたい。清田さんの目指すところです。

 「若い頃は『脱施設』のやり方を一生懸命考えていたんですけど、今は地域の中にいろんな芽を見つけ、やれることはたくさんあるよと地域を盛り上げていけば、自然とそっちを選ぶ人が増えるんじゃないかと思っています。重い障がいを持つ人たちが住みよいまちは、どんな人にも住みよい、やさしいまちになるんですよ」


写真、NPO法人月と風との資料
写真、笑顔の清田さん
写真、インタビューに答える清田さん
写真、インタビューに答える清田さん
写真、インタビューに答える清田さん
写真、インタビューに答える清田さん
写真、インタビューに答える清田さん
写真、インタビューに答える清田さん
写真、笑顔の清田さん

(プロフィール)
きよた・まさゆき 熊本県出身。タイガース好きが高じて阪神間の大学に進学。甲子園でのアルバイトと演劇漬けの学生生活を送る。プロの劇団にも所属したが、「演劇だけでは食えない」と断念、会社員を経て学生時代に専攻した福祉の道へ。社会福祉士の資格を取り、入所施設などで4年間働いた後、園田にNPO法人「月と風と」を設立。「詩のボクシング第5回兵庫県チャンピオン」の経歴も。