ごきげんさんに暮らすまち、尼ノ國

尼ノ民たち

高木一宇さん(75)/「アマフォレストの会」会長

ゼロから森をつくる


 臨海地域の工場跡地で、100年かけて生物多様性豊かな森づくりが進められています。兵庫県が策定した「尼崎21世紀の森構想」の拠点「尼崎の森中央緑地」です。2006年から植樹を始めて11年。何もなかった場所に、2017年3月末現在で約180種類8万2,000本の木々や草花が生い茂り、鳥や昆虫が姿を見せています。

 魔法のように、ぱっと森ができたわけではありません。歳月をかけて、地道に活動を続けてきた人たちがいるからこそです。市民や行政、団体、学校、企業など、さまざまな人たちの手が森づくりを支えています。


 そんな1人である高木一宇さん。尼崎で森づくりが始まると聞いて「ゼロからの森づくりを経験できる機会はめったにない」と一市民として志願しました。兵庫県が実施する勉強会で2005年から3年かけて森づくりの基礎知識や技術を学び、その時のメンバーを中心に2008年に市民団体「アマフォレストの会」を結成。当初から高木さんは会長を務めています。

タネを採ることからスタート


 「アマフォレストの会」の森づくり活動は、武庫川や猪名川沿いの森林で地域固有のタネを採集するところから始まります。

 タネをまいて、2年程度かけて50センチほどの苗木に育てます。3年目以降から植樹を始め、苗木が雑草に負けぬように暑い夏も欠かさず除草。8年目以降は木の成長のために間伐作業が加わりました。10年が経ち、木々は8メートルほどに成長。植樹は2021年までの予定で、以降も森林の保全活動は続きます。


 「非常に手間のかかる地道な作業で根気がいります。成長していく過程を見られる喜びはありますが、ボランティア活動なので報酬はありません。現在、中心となっているメンバーは、森づくりに対する確固たる理念に基づき、『尼崎に森をつくろう』という強い気持ちがあるから続いています」

 揺るぎない想いが、高木さんにはあるのです。

森の必要性を知っているからこそ


 高木さんは会社員時代からハイキングや山歩きが好きで、山道を整備する人たちを見るたび、「そういった活動に関わってみたい」と関心を持っていたそうです。定年退職した後、実行に移します。

 ボランティアデビューは川西市黒川地区のクヌギ林の整備。それがきっかけで、木について学びたいと、「NPO法人シニア自然大学校」にも入学します。この2つの出来事がその後の活動を運命づけました。

 「木を切ることは人間の本能に訴えるものがあり、理屈抜きに楽しいし、里山にいると心が安らぐ。学校では『なぜ森が必要か』について学びました。普段は意識しないかもしれませんが、私たち人間は森の木など植物がつくり出す酸素があるから呼吸できています。ほかにも森がないと生きていけないことがたくさんあるんです。『文明の前には森があり、文明の後には砂漠が残る』と格言が残るほど、過去には森林破壊によって文明が滅びた例もあります。森の必要性を知ったからこそ、身体が動く限りは続けたいと心が決まりました」

森づくりのDNAを次世代へ


 森づくりは1世代で完結するものではなく、次、その次の世代へと、つないでいくものです。「アマフォレストの会」では結成2年目から、幼稚園児や小学生、中学生、高校生を受け入れて環境体験学習を実施してきました。

 「子どもたちに森づくりの楽しさを知ってもらうため、タネまきや植樹をしてもらっています。また、たとえば文字が書ける葉やちぎっても維管束でつながる葉、セミの卵など、自然の不思議に触れてもらっています。自然って『すごいな』『素晴らしいなあ』という気持ちを通じて、森や自然の大切さを心に刻みつけてもらえたらうれしい。尼崎の森づくりのDNAをつないでいきたいですね」

 高木さんの中には、すでに未来の森のイメージが広がっています。「カブトムシの採集や茶道用の菊炭づくりを行えるようにしたい。100年後には人間が入って安らげる里山や、立ち入り難いうっそうとした森もあればいいなあと思っています。森をつくらないと何も始まらないので、今はただ前に進むだけです」


 目の前の活動に取り組みながらも、まなざしはいつも未来へ。30年、50年、100年後には、人間と自然が共生する新しい都市の在り方が、尼崎から生まれているかもしれません。











(プロフィール)

たかぎ・かずひろ 定年退職した2003年から、自然環境を保全する活動に取り組む。大阪府豊能町で「池田炭」づくりの伝統を継承するNPO法人シニア自然大学校「菊炭クラブ」を立ち上げて代表を務めるほか、伊丹市においても「伊丹の自然を守り育てる会」に所属する。「アマフォレストの会」としては、月5回の活動のほか、環境体験学習の受け入れや「森づくり体験講座」開講などにも取り組む。


ページトップヘ