ごきげんさんに暮らすまち、尼ノ國

尼ノ民たち

牧野篤史さん(40)/フリーアナウンサー・ボイスタレント

番組を通じて尼崎の魅力に出会う

 牧野篤史さんのフリーアナウンサーとしての第一歩は尼崎から始まりました。2005年、FMaiai(エフエムあまがさき)でお昼の番組のパーソナリティーを週2回務めることになったのです。番組の取材や中継やトークゲストを通じて接するまち・人・情報はどれも、大阪・千里のニュータウンで育った牧野さんには新鮮だったといいます。

 「局に近い阪神尼崎駅周辺にはタイガース応援で盛り上がる商店街があり、貴布禰神社に行けばだんじり祭りをやっている。尼崎で作られている工業製品や食べ物を表彰する『メイドイン尼崎コンペ』の中継をしたり、市南部の情報が満載のフリーペーパー『南部再生』の編集スタッフに話を聞くコーナーがあったり。いろんな人がそれぞれの場所で、思い思いにいろんなことをやっている、その積み重ねでこのまちはできてきたことを実感したんです。それはちょっとニュータウンにはなかったことだなあ、と」


 2010年からはやはり同局で、神社の宮司とお寺の住職とキリスト教の牧師がトークを繰り広げる名物番組『8時だヨ!神さま仏さま』の制作を担当。現在はお昼の番組『コーデBOX!』の月曜パーソナリティーをしながら、市内のイベントや行事で司会をしたり、大学やカルチャーセンターで教えたり、声の表現について指導したり、声の仕事を通じて尼崎のまちとどんどん縁を深めています。

みんな、ちょっとしたきっかけを待っている


 仕事を通じて尼崎とのかかわりを深めてきた牧野さんですが、結婚した奥さんも尼崎出身。その縁で2012年には住民となりました。近所付き合いや育児をする中で、仕事とはまた違ったコミュニティーと出会っていったといいます。

 「マンションの管理会社が住民同士の親睦をはかろうと、バーベキューやもちつき大会を企画したり、避難訓練の後に懇親会を開いたりしてくれたんです。おかげで、同じ年ごろの子どもを持つ同年代の人たちと話す機会ができ、一気に距離が縮まった。仲良くなった何組かの家族で、お花見や花火見物、クリスマス会など、今もいろいろやっています」


 子どもが幼稚園に入ると、またコミュニティーが広がります。自由な教育方針の「はまようちえん」を選ぶと、そこでは新入園児歓迎バーベキューにはじまり、保護者たちが企画・運営するさまざまなイベントやクラブ活動がありました。子どもだけでなく、親も一緒に幼稚園生活を楽しむ様子に、牧野さんはすんなり溶け込むことができたといいます。

 「僕はこれでけっこう人見知りなところもあって、何もきっかけがないところで一から人間関係を作ったりするのは得意ではありません。だけど、そういう場が用意されていると、自分の中でスイッチが入って積極的に話もできる。僕と同じように、ちょっとしたきっかけを待っている人って意外と多いんじゃないでしょうか」

まちを元気にする「話し上手」を作りたい


 仕事でも、プライベートでも、尼崎が大切なホームとなった牧野さん。これから、このまちでどんなことをしていきたいと考えているのでしょう。

 「今、地元のライターさんが子どもたちに作文を教え、僕が朗読を指導する教室をやっているんですけど、そんなふうに『声で表現し、伝える』ことをもっと広めていきたいと思っています。発声や抑揚、高低といった声の使い方だけじゃなく、話をする順序、言葉の選び方、場の空気の作り方など、ちょっとしたコミュニケーションの技を身につければ、なにげない日常の会話でも、もっと楽しくなり、伝わりやすくなる。言ってみれば、話し上手を作るということかな」


 毎年夏に市内の学校を借り、市民が先生となって自分の得意分野の講義をする「みんなのサマーセミナー」では、牧野さんが先生たちに話し方を指導する計画もあるといいます。

 さまざまな声の仕事を通じて経験し、身につけてきたことを地域の人たちに伝えたい。話し上手が増え、コミュニケーションが豊かになれば、まち全体が元気になる。「ちょっとおおげさですけど……」と照れながら、牧野さんはそんな夢を話してくれました。

 「まあ、尼崎はもともと話し好きな人が多いですから、みんな話し上手になる素質はあると思います。あとは何か一つでも技を身につけて、みがいていくことですかね」

コミュニティーにかかわるたくさんの入り口を



 尼崎での暮らしを牧野さんに聞く中で、とりわけ印象的な言葉がありました。
 「僕自身もそうですけど、妻も子どもも、すごくスムーズに〝地元の人〟になれた気がするんですよね。こんなにスッといくもんかなあと思って」

 それは、仕事や近所付き合い、幼稚園の送り迎え、買い物、子どもとの散歩など、日常的にかかわる場所ごとにそれぞれのコミュニティができていて、自然とまちにかかわっていく入り口がたくさんあったからだといいます。

 「声のプロ」として地域にかかわり続ける牧野さんもまた、新しい住民のために、そんな入り口を作る人になっていくのでしょう。



(プロフィール)
まきの・あつし 大阪府豊中市出身。小学5年生で放送委員を経験、中学時代は深夜放送などのラジオに熱中し、しゃべる仕事に興味を持つ。大学卒業後、会社員を経て、フリーアナウンサーとして独立。FM aiaiのほか、FMCOCOLO、FM大阪などでDJ、ニュースアナを務める。現在はボイスタレントとしてラジオパーソナリティや披露宴・イベント司会、ナレーションのほか、番組の企画・制作や話し方講座の講師を務める。


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